「1年後のグラウンドゼロ」
突風に吹き上げられた砂埃が高く舞い上がり、僕の頬を強く叩き付けてくる。時々濃い霧のごとく視界を遮る砂埃に身を晒していると、1年前の記憶がまざまざと蘇ってきた。
ここはグラウンド・ゼロ。9.11テロ事件で破壊された世界貿易センターの跡地だ。事件からちょうど1年たった今日、集まった4千人をこえる遺族を前に犠牲者への追悼式典が静かに行われていた。 いつ果てるとも知れずに延々と立ち上っていた黒煙、数ブロックにわたり積み上がった瓦礫の山、そしてマスクをしなくては呼吸さえも困難だったほどに粉塵にまみれ、異臭を含んだ空気・・・そんな1年前の光景などまるでただの悪い夢であったかのように、いまのグラウンド・ゼロは整然とした、なんの変哲もない工事現場のごとくその姿を変えていた。
遺族の代表が順番にステージにあがり、犠牲者2801人の名前を一人ずつ読み上げていく。今は亡き妻の写真を空に向かって高くかかげる夫、亡くなった娘に祈りを捧げる母親、肩を抱き慰めあう家族たち。。。遺族達は、それぞれの思いを胸に、このグラウンド・ゼロと対峙していた。
アフガニスタン爆撃、イスラエルのパレスチナ弾圧の容認、そして現在すでに時間の問題となりつつあるイラクへの軍事侵攻と、この1年間、ブッシュ大統領はテロ撲滅を表向きの理由に軍事行動を続けてきた。しかし、テロ事件直後に国民の怒りによって支えられてきたブッシュへの支持率も、徐々に陰りがみえ始めているようだ。事件から1年経ち、悲しみが少しづつ癒されていく中、犠牲者の遺族の間からもブッシュの政策を疑問視する声が上がりはじめている。
「いったい米国は何をやっているのでしょう? ブッシュ大統領は本当にテロ根絶を考えているのでしょうか?」世界貿易センタービルで働いていた息子を亡くしたアイリーン・ルガノさんはブッシュ政権に対する心境をこう語った。
「テロ根絶を本気でやるなら、何故サウジアラビアを放っておくのですか? 結局は産業界に都合の悪いことろには手を出すとができない。。。イラク侵攻も、サダムに対する個人的憎悪によるところが大きいのではないでしょうか」
9.11テロの容疑者19人のうち、なんと15人がサウジアラビア出身であるという事実がありながら、ブッシュはこの国に対して強固な態度に出ることができない。それは親米的なアブドラ皇太子を実質的なリーダーとするサウジアラビアが、アメリカにとって重要な石油の安定供給源となっているからだ。更にブッシュは、今でこそ国連やヨーロッパ諸国の同意をとりつけられずに地団駄を踏んではいるが、どうにか理由をみつけてイラクへの攻撃を正当化しようとうずうずしている。これはテロ根絶というよりも、父のブッシュの暗殺を企てたフセインへの憎しみを晴らしたいというのが本音だろう。しかし、アフガンでそうだったように、そのためにイラクの一般 市民や子供達がどのような犠牲を払うことになるのか、彼の頭には想像がおよばないようだ。
20年連れ添った妻を世界貿易センターで失ったチャーリー・ウルフさんはいう。
「テロ根絶には賛成だが、それにかこつけたやり過ぎはまずい。もともとブッシュがきちんとイスラエル問題と取り組んでいれば、このテロ事件は起きなかったはずなのだから」
ブッシュ大統領の言動をみていると、何故アメリカがテロの標的になったのかということが微塵も分かっていないようだ。僕が1年前のこのジャーナルにも書いたように、このままアメリカが傲慢な一極支配を続けていく限りテロは起こり続けるだろう。大統領はアメリカ外交政策の犠牲者であるともいえる彼ら遺族達の声に、今こそ真摯に耳を傾けるべきではないだろうか。
