「正義のための戦争?」
「石油のために血を流すな!」「戦争ではなく愛を」「爆弾を落とすのではなく、ブッシュを引きずり落とせ!」、果てには露骨にも「ファック・ユー、ブッシュ(ブッシュのくそったれ!)」などなど、それぞれの思いを綴ったプラカードを手にした参加者達が、この日ボストン・コモンの集会広場を埋め尽くした。前週末にワシントンDCをはじめ世界各地で行われた反戦集会に続き、今日はボストンで住民達が、ほぼ確定的になりつつあるイラク爆撃に対する反対の声をあげるために集まったのだ。10万人を動員したDCの集会にははるかに及ばないが、ここボストンコモンにもざっと見積もってすでに5、6千人は集まっているようだ。集会が始まったあとも次々にやってくるその数は増え続けており、僕がここ10年程取材したボストンでの反戦集会のなかでは、最も大きなものだといえるだろう。
10月第2週目に米国議会上下両院は、イラク攻撃容認の決議を採択した。これはすなわち議会の承認なしにブッシュの判断で武力行使が可能になったということで、イラク攻撃をしたくてうずうずしているブッシュに議会はついに御墨付きを与えてしまった訳だ。それでもイギリスを除いたヨーロッパ各国やロシア、中国など、早急な攻撃に批判的な国際世論を前に、米国といえどもあまりにも独りよがりな行動はやりにくい。できるなら国連の同意を得てから攻撃をおこないたいのは本音であり、そのためにイラクに国連査察団受け入れの期限付きの通告をだすなど、ブッシュは無理にでも攻撃を正当化しようとやっきになっている。
しかしブッシュのいう「正義」など、所詮は米国産業界にとって都合の良い正義、ということに過ぎず、とても普遍的な正義などと言える代物ではないだろう。訳も分からず爆撃によって殺されていくイラクの何の罪もない子供達や一般市民達にとっては、ブッシュのいう正義のための戦争は、まさに彼が撲滅しようと声をあげている「テロリズム」そのものではないのか?
将来必要になってくる石油の確保のために、イラクの石油源は米国産業界にとって喉から手が出る程押さえておきたい場所である。現在すでに親米的な政府を持つサウジアラビアに加え、フセインを倒してイラクに親米政権を打ち立てればアラブの石油に関しては米国の将来は安泰だ。また、父親の果たせなかったフセイン打倒を成し遂げたい。。。結局はそんなところがブッシュの本音であろうことは想像し難しくない。彼が強調するように、テロリストの撲滅や世界の平和のために「悪の枢軸」と戦う、なんてことは、単なる表向きの理由付けに過ぎないのだ。
しかし9.11のテロ事件で大きな犠牲を被った多くのアメリカ市民達は、強い被害者意識と危機感に煽られているためにイラク問題とテロリスト問題を同一視してしまっている傾向があるようだ。それが、米国民のイラク爆撃支持率60パーセント以上という数字にあらわれている。
先日同じ新聞社で働くアメリカ人の記者とこの問題について議論になった。彼は特に右寄りというわけでもなく、人のいい男ではあるが、アメリカ・イズ・ナンバーワン、という意識を持っていることを時々臭わせる人物である。こういう意識は、往々にして、「アメリカが正しく、アメリカの基準が世界の基準である」と勘違いしてそれを他国に押し付けるという危険につながっていくものだ。僕がイラク攻撃についてアメリカを批判すると、「それじゃあフセインを放っておいて、将来大量殺戮兵器や核で襲ってきたらどうするんだ? だいたい君達日本人も核をもつ北朝鮮を隣にしてのんきに構えている場合ではないだろう?」と食ってかかってきた。僕は、そういうことが起こらないように平和的に外交をするのが将来のためだし、武力を行使しても憎しみをかうだけで問題の根本的解決にはならない、と返したが、彼はこう切り捨てた。「だめだ。あいつら(フセインや金正日)は狂っている。話し合いのできる相手ではない・・・」
確かにイラン・イラク戦争、クウェート侵攻、さらに自国の少数民族に対する虐殺など、野望のために独裁者フセインの犯してきた罪は大きい。しかしそれを非難し、罰する資格が果たしてアメリカにあるのだろうか? ビン・ラディンやアルカイダにしても、もとはといえば冷戦時代のアフガニスタンでソ連に対抗するためにアメリカが支援し育てたものだ。フセインにしても、彼が1988年に化学兵器を使ってクルド人達の大虐殺をおこなったとき、自国の利益のために当時フセインを支持していたアメリカは見て見ぬふりをしていたのだ。今ブッシュのいう「正義」や「民主主義」という言葉が、いかに白々しく響くことか。。。
この日ボストンコモンでの反戦デモに参加したのは最終的に1万5千人あまりであったという。残念ながら彼等の声は、人間の命よりも米国産業界の利益を優先するブッシュの心には届かないだろう。前述のようにイラク攻撃を米国民の6割以上が支持しているという現実がある。フセインが折れてブッシュの言いなりに国連の武器査察団を認めない限り、もうイラクへの爆撃を止めることはできないのかも知れない。
