「イラクにまでおよぶ外務省の報道規制」

(週刊金曜日 2006年7月)


現在バグダッドから西におよそ100キロほどいったラマディの米軍キャンプに滞在している。2003年の米軍侵攻以来、今回でイラクにはいるのは5度目になるが、今度の入国にはかなりてこずった。それもイラク側との問題ではなく、日本政府のためだ。

これまで許可されてきたイラクの入国ビザが、今回は「日本政府から、日本人にビザをださないように、という要請を受けているから」という理由で拒否されたのだ。

そんなことは治外法権になるんじゃないかと訝しく思い、バグダッドの日本大使館に問い合わせると、「イラク政府に対しそういう要請をしたことはない」との返事。

バグダッドに在住するトリビューンのスタッフに頼んで双方から確認をとってもらったが、イラク側は「日本政府の要請だから。。。」、日本側は「そんなことはいっていない。。。」との一点張りで結局真相は判明しない。

しかし、昨年南部のバスラを訪れたときも、日本政府が絡んだ面倒があったことを思い出した。

すでにイラク政府から認可をうけた入国ビザをパスポートに押してもらうためにドバイのイラク大使館を訪れると、「日本大使館から許可をもらわなくてはビザの発給ができない」という。イラクのビザをもらうために日本大使館の許可が必要だなんて変な話だと思いながらもとにかく日本大使館に出向いて書類にサインし、(詳しくは覚えていないが、イラクで何か事故が起こった場合、自己の責任である、というような内容だったと思う)了解の手紙をもらってようやくビザをもらうことができたのだ。

こんないきさつもあったので、今回も裏でどういうことになっているかは大体見当はついていたが、現実的にすでに従軍開始の日程も決まっていた僕にとって、ビザの拒否は深刻な問題になった。

手を尽くしたあげく、なんとか米軍の飛行機を使って予定通りイラクに入国することができた僕のもとに、数日前日本の知人からある新聞記事のスキャンが届いた。6月29日の日経と7月1日の読売に掲載されたその記事は共に、日本外務省が英国に対して、日本人記者の英国軍従軍取材を許可しないよう要請していたことを報じるものであった。読売の記事には、英国軍の許可のもと、南部バスラの英軍基地にまではいっていたのに、直前になって日本政府によってサマワの取材を妨害された記者の無念が綴られている。

退避勧告のでているイラクに邦人がいくのは望ましくない、というのが政府の言い分らしいが、日本人が殺害されている危険な国などイラク以外にいくらでもある。それなのにイラクだけで政府がビザ発給の停止を求めるこんな措置をとっているのは、自衛隊撤退と関係があるのは明白だ。僕の取材は自衛隊とはまったく関係ないにも関わらず、邦人というだけでとばっちりを受けたうけたわけだ。やっぱりな、と思うと同時に、こんなことが許されていいのか、という怒りがこみあげてきた。

これは明らかに政府によるメディアのコントロールであり、報道の自由の侵害であると思う。

現在イラクで従軍中なので、このことが日本国内でどの程度ニュースになっているのかわからないが、日本のメディアは結束してこんな政府の横暴に対する断固とした抗議をおこなうべきだと思う。このような政府ぐるみの報道者の権利侵害は許されるべきではないし、自衛隊のことにしても、もともと税金を使っておこなわれている派遣なのだから、国民は自衛隊の動向を知る権利があるはずだ。

メディアがこのような政府の越権行為を許すことによって、将来事態がエスカレートし、戦時中のような情報統制がおこなわれるようになることを非常に危惧している。