「ソマリア 終わらない戦争」
(週刊金曜日 2008年2月)
アフリカ北東部に位置し、その尖った地形から「ホーン・オブ・アフリカ(アフリカの角)」とも呼ばれるソマリア。1991年の内戦以来国土は分断されたまま、暫定政権が存在するが事実上の無政府状態が続いてきた。首都モガディシュは現在、爆弾テロなどのリスクが大きいため、ほとんど外国からのジャーナリストが訪れることのない、見捨てられた土地となりつつある。
昨年10月、この街にある唯一の精神病院、ハベブ・メンタル・ホスピタルを訪れた。
2005年に院長のハベブ氏によってつくられたこの病院には現在50人弱の患者が入院するが、多くは精神安定剤の多用で、うつろな眼で宙を見つめるか、ベッドに横たわっていた。
ハベブ氏は看護士の資格しか持っていない。世界保健機関(WHO)で精神病のトレーニングを3カ月受けただけだ。それでも患者の診察・治療を行ない、外傷があれば手当てもする。
精神病の知識が乏しいアフリカでは、いまだに精神障害が悪霊の仕業だと信じる人が少なくない。ソマリアでも悪霊を取り払おうと患者に暴力を加えたりすることがあるという。ハベブ病院にも家族から暴力を受け、背中に無数の傷がある青年が入院していた。病院にはハベブ氏を頼って、患者を連れてくる家族が後を絶たない。この2年間で2000人以上が、この病院に入院したという。ほとんど会話の成り立たない患者から発症の理由を聞き出すことは難しいが、長年続く内戦の影響は無視できないだろう。
2006年6月、イスラム法廷会議(ICU)がモガディシュを含む南部地域を制圧し、治安面では一時的に安定が訪れた。しかし、イスラム原理主義政権とアルカイダとの結びつきを恐れる米国の後ろ盾によって、隣国エチオピアがモガディシュに軍事侵攻してICUを掃討、2007年1月に暫定政権軍が首都を奪回した。巻き返しを図るイスラム原理主義者の武力抵抗は現在も続き、多くの市民が犠牲になっている。
「退院しても戦争でまた病んでしまう、この繰り返しです」。ハベブ氏が強い口調で言った。
入院するほどでなくても、心に傷を受ける市民の数は計り知れない。レイラ・モハメド・アブディさんも、そんな一人だ。夫は自分と子どもの目の前で撃たれ、息をひきとった。今でも彼女はそのときのトラウマに悩まされている。
国連の統計では、長引く内戦で家を追われた難民の数は85万人にのぼるといわれている。
単一民族でありながら、伝統的に氏族(クラン)ごとに地域支配されてきたソマリアは、氏族間の勢力争いが絶えることがないうえに、常に大国の思惑にも翻弄されてきた歴史を持つ。
イギリス、フランス、そしてイタリアの保護領にされた後、冷戦時代にはソ連・米国双方から干渉を受けているし、戦火を交えた隣国エチオピアとは犬猿の仲だ。氏族のリーダーが、自己の利益に妥協しながら一つの国家としてまとまることは非常に困難だと考えられている。
