「パキスタンを必要とする米国」

「この壁に描いてある絵はみな天国を意味しているんだ。こういう楽園へ行けるのだ、と教育して自爆テロリストをつくりあげていたのさ」

アフガニスタンとの国境に近い村ノワズコットで、パキスタン陸軍のサリーム少佐は、廃墟となった建物にまだ残る壁画を指してこう言った。ここはタリバンが自爆テロリストを育てるために使用していた「洗脳室」であったという。その建物のすぐ脇には、血で書かれた文字が生々しく残る石壁が残っていた。そこは裏切り者や捕まえた敵の首切りをおこなう処刑場だったらしい。

パキスタン軍は昨年10月、タリバンの軍事拠点となっていたこの南ワジリスタン地方に3万人の兵力を投入し総攻撃を開始した。作戦は一定の成果を得たものの、逃避分散したタリバンはいまだに各地で爆破テロなどを続けており、タリバンの総力が激減したかといえば疑問が残る。

「テロとの戦い」を名目にブッシュ大統領によって開始された米軍のアフガニスタン侵攻からすでに9年。以前としてオサマ・ビン・ラデンの行方も分からず、明確な成果のないまま状況は泥沼化の一途をたどっている。アフガニスタンにおける今年7月の米兵死者数は89人となり、過去最高となった。

アフガニスタン国境付近の部族地域を拠点とするパキスタン・タリバンはアルカイダとも繋がっており、国境を行き来するこの勢力はアフガニスタンのNATO軍、及び米軍にとって頭の痛い存在になっている。こういった状況に対処するため 、米国は核兵器保有問題を原因に中止していたパキスタンへの援助を近年になって再開、その一環として昨年、国境から30キロ程の山間部に軍事トレーニングセンターが設立された。米国はセンター設備やトレーニング費に5000万ドル以上を出資、さらに教官として10人程の米兵士がその任務にあたっている。

しかし、支援が再開されたとはいえ、パキスタンの米国に対する信頼が確立されたわけではない。インドと犬猿関係にあるパキスタンにとって、親インドの米国からの援助には慎重にならざるを得ない。さらに、タリバンへの攻撃は主に空爆によるものだが(これも主に米軍の提供したF16爆撃機とコブラ・ヘリコプターによるもの)、一般市民を巻き込んだ誤爆が増えるにつれ、反米感情も高まっていく一方だ。

このような背景から、米国はパキスタンからの協力を必要不可欠としながら、あまり表立った援助はしにくいというジレンマに陥っている。

「これまでの経験のなかでも、ここでの任務はもっとも複雑だよ」

トレーニングセンターの教官長を勤める米陸軍大佐がこぼした言葉は米国・パキスタン間の複雑な状況を代弁していた。

今月1日にはオランダ軍がNATO加盟国として初めてアフガニスタンからの撤退を開始し、来年にはカナダ軍が撤退の予定。英国も引き時を検討する中「テロとの戦い」を続けたい米国にとっては、パキスタンがその最大の鍵を握っているともいえるだろう。